第1節 総長挨拶・副総長挨拶
第2節 基調講演
第3節 パネルディスカッション
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第3節 パネルディスカッション

「産学官各分野における現状の課題と産学官連携に期待すること」

コーディネーター 名古屋大学男女共同参画室長 金井篤子氏
パネリスト 愛知県県民生活部社会活動推進課男女共同参画室長 近藤薫氏
名古屋市総務局総合調整部男女平等参画推進室長 横田啓子氏
愛知県経営者協会専務理事兼事務局長 柴山忠範氏
連合愛知調査・広報局長 橋本新氏
名古屋大学男女共同参画室 田村哲樹氏

束村 それでは時間になりましたので、パネルディスカッションに移りたいと思います。「産学官各分野における現状の課題と産学官連携に期待すること」をテーマにパネルディスカッションを開始したいと思います。
 ここで、パネルディスカッションのコーディネーターを務めます、名古屋大学総長補佐であり、また名古屋大学男女共同参画室長の金井篤子先生にマイクを譲りたいと思います。金井先生、どうぞよろしくお願いいたします。
 
金井 それではパネルディスカッションを始めさせていただきます。私、今ご紹介いただきました金井でございます。よろしくお願いいたします。
 第1部では、名取局長から非常に貴重なお話をいただきまして、本当にありがとうございました。この基調講演を受けまして、第2部では「産学官の各分野における男女共同参画の現状と課題、それから産学官連携に期待すること」ということで話を進めていきたいと思っております。
 若干、パネルディスカッションの趣旨をお話させていただきますと、すでに総長からごあいさつさせていただきましたように、本シンポジウムの目的は、「男女共同参画社会基本法」に強調されるように、社会のありとあらゆる分野における男女共同参画の実現を目指しまして、産学官連携をとっていこうということでございます。すでにいくつかお話いただいておりますように、この分野における産学官連携というのは非常に珍しいといいますか、特に自然科学の分野では産学官連携というのは当たり前なのですが、こういったソフト面における産学官連携というのは興味深い試みではないかと思います。
 今回、名古屋大学からこういったご提案をさせていただいたわけですが、実際のところ男女共同参画といいますのは、どちらかというと民意を反映しました官の主導によって産業界が動いてきたというのが実情でございまして、大学は審議委員という形で学識経験者として人を出すということはあったものの、大学として取り組んできたかと言われますと、これは心許ないところがあるのではないかと思います。そういう意味で、今まで産官連携で行われてきたところに、産学官連携ということで新しい可能性を見いだしていこうということでございます。ただ、大学の方もただ手をこまねいてきたかということではなく、先ほど伊藤副総長からもお話をさせていただきましたように、さまざまな活動はさせていただいております。
 トピックとしてご紹介させていただきますと、昨年度より高等研究院という組織を立ち上げておりまして、学内の優れた研究をバックアップしようというシステムをスタートさせていただいております。昨年は15人の研究者が全員男性でございましたけれども、今年は13人の研究者のうち2人の女性研究者が入っておりまして、女性の進出という意味で評価できるのではないかなと思っております。こういったように活動はしているのですが、大学も理論的枠組みだけを提供して紺屋の白袴でいいということは決してございませんので、産学官連携には非常に期待をしているところでございます。
 ただし、先ほど名取局長からも「日本初の試み」と言っていただいたわけですが、前例がないことでございますので、具体的な形は今後作っていかなければならないということになります。その意味からも、今回のパネルディスカッションを契機にしてスタートできればと思っております。また、今回のパネリストにはそれにふさわしい皆さんにご登場いただけたとたいへん喜んでいるところでございます。
 それでは、早速パネリストの皆さんからご発言をいただきたいと思います。限られたお時間ですので、あまり十分な時間は取れないかもしれないのですが、フロアーの皆さんからもご意見をいただく時間を取りたいと思っておりますので、のちほどよろしくお願いいたします。
 最初は、愛知県県民生活部社会活動推進課男女共同参画室の近藤室長からお話をいただきたいと思います。愛知県は10月を男女共同参画推進月間とされておられまして、来月いろいろな催しが目白押しでございます。それでは、近藤室長、よろしくお願いいたします。

近藤 愛知県の近藤でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 私からは愛知県における現状と今後の課題、それから今日のテーマである産学官連携への期待ということをお話させていただきます。
 その前座として、愛知県の男女の状況がどうなっているのか、ちょっと統計数字をご紹介させていただきます。1年前の数字なのですが、愛知県は人口712万人。男性、女性半々でございます。2000人ぐらいしか差がございません。ですけれども、65歳以上の高齢者人口になりますと、だいたい半々の男性、女性のうち、男性の高齢者は13.6%、女性は17.6%ということで、4ポイントほどの差がございます。
 婚姻と離婚、人口動態でございますけれども、昨年、平成14年度の愛知県における婚姻件数は、人口千人対で言いますと、全国が6.0%に対しまして愛知県は6.6%。それに対して離婚は、これもやはり人口千人対の比率でございますが、全国が2.03に対して愛知県は2.2。全国と比較しますと、愛知県では婚姻率が高く、離婚率が低いということになります。平均初婚年齢も、夫は全国平均に追いついたのですね。29.1歳になりましたが、妻はまだ全国平均を下回っておりまして、27.2歳です。
 合計特殊出生率も全国平均1.32に対して、愛知県はまだ1.34と、まだ少し高うございます。それに対して死亡は、平成14年1年間で亡くなった方は、男性が2万6000人に対して、女性が2万1000人で、男性の方が5000人多くなっています。自殺は、愛知県内の自殺の数でございますので、住所地がよその県でも、愛知県内で自殺された方、平成14年1年間で男性が1038人、これに対して女性は514人。実に男性は女性の2倍以上です。年代別では、男性は50歳代が一番多くて、女性は65歳以上、高齢者です。自殺に至った原因、動機を申しますと、男性では経済生活問題が一番、女性では病苦が一番となっております。男性の一番の経済生活問題という分類のところは男女間で一番差がありまして、男性は28.7%だったのが、女性は5.1%でした。
 進学者の状況は、14年3月に高等学校を卒業した人のうち、その上の学校に進学した人は女性の方が多くて、女性が1万8412人、男性は1万7468人。進学率も女性が52.7%、男性は51.2%。1.5ポイントほど女性の方が高くなっております。4年制の学部への進学率が、男性が49.8%であるのに対して女性はまだ37.5%と、12ポイントの差があります。
 それから就業状況でございますが、平成14年に愛知県の15歳以上の女性のうち、なんらかの形で働いていた人は51%、半分以上の女性が働いています。全国平均は48.5%ですので、全国平均よりも2.5ポイント多い人が働いているという状況ですが、男性の86.4%が正社員であるのに対して、女性は35.7%に留まっており、43.1%の人がパートタイマーで働いているという状況になっております。したがって賃金も、決まって支給する現金給与額が、男性が約38万4000円であるのに対して、女性が約24万3000円でした。先ほど名取局長の基調講演にありましたように6割になっているということです。
 
 そんな状況の中で、男女共同参画社会の実現に向けて愛知県は何をやっているかというところでございますけれども、愛知県は昭和50年、1975年、第1回の「国際婦人年」ですね、その翌年、昭和51年から女性施策を専門で行う部署を作ってやってまいったわけなのです。平成11年の「男女共同参画社会基本法」の施行を受けまして、13年3月に、県の男女共同参画計画「あいち男女共同参画プラン21」を策定しております。この計画の目標は、男女共同参画社会、男女が互いにその人権を尊重しつつ責任も分かち合い、性別にかかわりなく、社会のあらゆる分野において個性と能力を十分に発揮することができる社会の実現でございます。この計画は13年に作りまして、平成22年度までの10年計画でございますので、10年後にプランに書かれました施策が実現すればそれでよかったわけなのですが、それに加えまして愛知県は計画策定から1年後の平成14年4月、1年半前でございますが、「愛知県男女共同参画推進条例」を施行いたしました。
 愛知県が条例を制定しましたことの意義は2つございます。一つは、男女共同参画社会に実現に向けて愛知県が真剣にやるのだという強い意志を表明したことでございます。もう一つは、もとより男女共同参画社会の実現は行政の力だけで実現できるものではなく、県民、事業者が一体となって取り組む必要があるということを明確にしたことが意義の2つ目でございます。
 条例の中で、この行革の嵐に逆らって「男女共同参画審議会」という条例に基づく基本法上の付属機関を設置していただきました。早速14年6月に知事から、男女共同参画社会の実現に向けて、県民と事業者のそれぞれの取り組み、役割、県の役割をどうしたらいいか、条例で定められました県、県民、事業者3者の責務の具体化について諮問をいたしまして、今年7月7日に初めての答申が知事に提出されました。
 今後どうしていくかということにつながっていくわけですけれども、まず審議会では県民の皆さんの男女共同参画を阻害していることがらは何かということについて、体験・意見を募集しましたところ、大勢の方からご応募いただきました。いろいろな意見がありましたが、もちろん男女共同参画を進めるという意見が大半を占めましたけれども、そうではないやはり伝統的な役割分担が大事だというようなご意見もいただきました。そのご意見を分析しましたところ、やはり「男は仕事、女は家庭」というフレーズに代表される男役割、女役割、あるいは男らしさ、女らしさということの決めつけであるとか、押しつけであるとかいうことが男女共同参画の推進を阻害しているということがわかりました。
 したがいまして、これから男女共同参画社会の実現のために県民、事業者、県ももちろんですけれども、取り組むべき課題を「性別による決めつけと固定的役割分担観への対応」といたしました。性別による決めつけと固定的役割分担観への対応をするために、県民は、男性、女性ともに仕事と家庭を両立して、かつ地域における課題解決に向けて参画すること。事業者は、男女労働者の仕事と家庭の両立を支援し、さらに多様な働き方が選択できるよう制度を充実させていく。
 そして、それを支える県の役割としましては、県の立場は2つございまして、一つは男女共同参画施策の推進者としていろいろな実態調査や啓発事業、特に委員の皆様から出されましたのは「チャレンジ支援」のお話の中にも出てきましたように、好事例モデルの紹介をしていく。それを県民、事業者との協働で行っていくというところが出されました。そして県のもう一つの顔というのは、知事部局1万2000人の従業員を抱える一事業者として率先垂範して男女共同参画を推進していくということでございます。
 今、来年度予算に向けまして、男女共同参画のモデルとなる好事例を、県民の皆さんに紹介していくことによって支援をしていきます。それから内部的には、男女共同参画施策というのは男女共同参画室の9 人の職員だけでやっているわけではありませんで、県庁全体でいろいろな施策を講じていく中で、男女共同参画の視点を取り入れていくということでありますので、県職員の意識改革にも取り組んでいきたいと思っております。

 それから本日の産学官連携に期待することということでございますが、これは愛知県としての意見ではなくて、近藤個人の思いだということで聞いていただければありがたいです。
 伊藤副総長のお話の中に、これからの大学は社会貢献が大事であること、寄与する学生の教育、あるいは研究活動について出てまいりましたけれども、大学に期待することといたしましては、一つはやはり大学というのは知の世界であります。研究成果を公開、特に行政に還元をしていただければ非常にありがたいと思います。いろいろな行政課題がございます。その行政課題の解決策をこれから一緒に考えていくということになろうかと思いますが、行政の施策展開にご努力をいただきたいと思います。
 もう一つは教育機関として人材養成の部分の努力です。行政は人事異動がありますので、ある日突然、男女共同参画室長の辞令が出るわけです。それでもって職員研修をやっていくというのはかなり難しいことでありますので、そういった人材養成を手伝っていただければうれしい。それと学生が社会へ出る前に、男女共同参画、男女平等、人権尊重ということをしっかりたたき込んでいただきたいという思いがあります。それについては、大学ではもう手遅れだという意見があって、高校以下義務教育からやるべきだという学者の先生のお話もありますので、そういうことであればそういったカリキュラムの開発、そういうことにも努力をしていただきたい。
 産業界ということになりますと、先ほどの審議会の答申に経営者協会からも委員を出していただきましたし、連合愛知の審議会にも委員をお願いいたしました。それは答申にありましたように、男女労働者の仕事と家庭の両立を支援していただきたいという一言につきるわけです。とりあえずのご報告はこれで終わります。どうもありがとうございました。


金井 近藤室長、本当にありがとうございました。愛知県の現状から現在における愛知県の取り組みについてお話をいただきました。また最後には大学、あるいは産業界に対する期待ということで、産学官連携の一つの具体的な取り組みについてご示唆をいただけたと思います。
 続きまして、名古屋市総務局総合調整部男女平等参画推進室の横田室長からお話をいただきたいと思います。名古屋市はこの6月に「つながれっとNAGOYA」をオープンされまして、活動にもはずみがついているとうかがっております。それでは横田室長、よろしくお願いいたします。

横田 名古屋市の男女平等参画推進室長の横田です。どうぞよろしくお願いいたします。
 名古屋市は、愛知県と同じ一つの地方公共団体ですが、市民に身近なところで行政サービスを進めている立場から、名古屋市の男女共同参画社会実現に向けた取り組みについて、少しご報告をさせていただきたいと思います。
 私ども名古屋市に、女性問題、女性の地位向上とか男女平等を取り扱うセクションができましたのは1977 年、昭和52年のことです。「国際婦人年」がございまして、地方においても女性の地位向上に向けた取り組みが必要だということで、当時の市長の選挙公約で設置されたセクションでございます。当初、予算も何もなく、突然8月に婦人問題を担当するということで、女性の行政職の課長を筆頭に3人のスタッフで出発したところでございます。
 今日の総長のごあいさつの中にもありましたけれども、やはりこういった取り組みが進むというのは、企業の場合でも大学の場合でも行政でもそうなのですが、トップの志とか、トップの姿勢というのが非常に大きいということを、今日、改めて感じました。名古屋市も同じようにやはり市長の選挙公約でセクションができました。これは今、男女共同参画社会基本法ができて国の最重要課題として取り組んでいる現状を考えると、それなりの地位にある方は、たえず志を持って部下の方、学生の方にその意向を伝えていただきたいと思っております。
 わずか3人のスタッフからスタートしたセクションですが、女性の地位向上や女性の社会参加を進めていくための体制づくりということで、まず庁内体制の整備にあたりました。それは市長を会長とし、局長、区長を委員とする推進協議会でございます。この協議会を使いまして、名古屋市の中にある男女の不平等を洗い直していこうということで、最初に取り組んだのが女性職員の職域拡大、能力開発ということでございました。その当時、どこの都市でもそうだったと思いますけれども、募集の場面で女性は何人、男性は何人ということがございました。それから消防職のように女性は採用しないということがありました。今の若い学生の方にはちょっと考えられないかもしれませんが、当時は採用の段階で男女差別がありました。もちろん女性の管理職もたいへん少なかった。婦人問題担当室の室長が初めての行政職の女性課長だったというぐらいですから、女性の管理職は本当に少なかった。女性の職域拡大、能力開発を進めていくために、市長と女性職員が討論会をするということにも取り組んだりしてまいりました。
 それからもう一つは、審議会委員への女性の登用促進。名古屋市にはいろいろな審議会があるのですが、その審議会に女性の委員を増やしていこうということです。女性の登用を促進するという、この2つの課題に取り組んでまいりました。
 体制の2つ目は、当時は「婦人問題懇話会」といっておりましたけれども、名古屋市が行政を進めていくうえで何が課題なのか、何が必要なのかを整理するために、外部の方、専門家の方から名古屋市に提言をいただく諮問機関として懇話会を設置いたしました。これについては、産業界、労働団体の方、あるいは大学の関係者の方などに審議会の委員になっていただいて、さまざまなことに、先ほど金井先生からご紹介がありました「つながれっとNAGOYA」をオープンするにあたっても、どういうセンターにしていくのか、どういう機能を持った施設にしていくのかというようなことについて、専門家のお立場から議論していただき、提言をいただいております。
 それから体制の3つ目は、「男女平等参画推進会議」といっておりますが、市民、事業者、各種団体、行政の関係者、46機関・団体の方にご参加いただいて、男女共同参画社会をめざしていくためのさまざまな情報交換をしたり、啓発活動を進めたりしていくという組織でございます。これは、今日のテーマである「産学官の連携」ということになるかとも思うのですけれども、行政だけで男女平等参画を進めていても、男女共同参画社会を実現できるわけではありませんので、市民の皆様方、あるいは事業者の皆様方と一緒に情報交換をしながら一緒に取り組んでいこうということで設置したものです。
 情報交換をするだけではなくて、何か市民の方々に広く知っていただくための啓発事業を実施しようということで、モデル事業をいくつか実施をしていただきました。たとえば、企業や団体の中でのセクシュアル・ハラスメントの問題がどうなっているのかということを調査していただき、その結果、啓発リーフレットを作成するというようなこともございました。また、女性にいろいろな役職へのチャレンジをしていただくために、女性をできるだけ登用していただくような支援策についての啓発資料も作っていただきましたし、小さい方への啓発ということで、ジェンダー紙芝居を作っていただくというようなことも、この推進会議を通じて実施をしております。
 もう一つ大きな体制ということでは、今年の6月にオープンしました「男女平等参画推進センター」があります。愛称を「つながれっとNAGOYA」と言いますが、このセンターを通じて男女平等や男女のあらゆる分野への参画を推進していくことを目指しています。
 次に、行政の取り組みの柱として大きいのは、方針を作るということがあります。国に基本法ができまして、愛知県にも条例、プランがあります。なぜ、市が条例を作ったり、プランを作ったりする必要があるのかと思うのですけれども、やはり名古屋市として行政を進めていくための方針が必要だろうということで、名古屋市の長期総合計画である「名古屋新世紀計画2010」の中に、男女共同参画を位置づけるとともに、その個別計画である「男女共同参画プランなごや21」を策定いたしました。
 条例も、「男女平等参画推進なごや条例」を制定し、昨年4月から施行しています。基本法には、市町村レベルで条例を作ることまでは明記されておりませんけれども、基本法をよく読むと、条例はどうしても必要なものです。
 名古屋市で条例を作るにあたって、市民の皆様と一緒に、なぜ条例が必要なのか、どういう条例が必要なのかということを話し合う集会を開きました。その時に、国の参画会議のメンバーでいらっしゃいます大沢真理先生に来ていただいてお話を聞いたのですが、地方分権の時代、必要なことは市の条例の中にきちんと掲げておかないといけないということを大沢先生のお話の中から気づかされました。たとえば、苦情処理の制度について言えば、国の基本法の中には、国の制度についての苦情は扱うけれども、市町村レベルの行政への苦情については自分たちで決めなさいよ、というふうに言外に書いてあるのですね。決めてあるとないとでは行政サービスに差ができてしまうということに気づかされまして、愛知県に条例があっても、国に法律があっても、やはり名古屋市の条例で、必要なことは市の役割も含めてきちっと明記しておかなければならないと思いました。
 今いろいろな都市で条例が作られておりますが、特に名古屋の特色はと言われれば、やはり私は、苦情処理制度がきちっと位置付けられているということ、それから拠点施設としてセンターを作るということが位置づけられていることではないかと思っています。
 苦情処理制度につきましては、昨年の11月にスタートいたしました。苦情処理委員は市長の附属機関という位置づけで、オンブズパーソンのようなまったく第三者的な機関ではありませんが、できるだけ中立公正な立場から苦情の処理にあたっていただけるようにと、学識経験者など3人の方にお願いをしております。
 この苦情処理制度として対処するのは、名古屋市の男女平等参画施策について苦情がある場合と、私人間での人権侵害についての苦情がある場合です。11月に制度が発足いたしまして、現在まで8件の苦情が寄せられております。この中の一つに、名古屋市の発注工事現場について、男女が働きやすい職場環境になっていないというのがありました。工事現場というのは、今までは女性がなかなか入っていかなかった職場ということで、意識するとしないとに関わらず、女性を想定した造りになっていないのですね。たとえば更衣室の問題ですとか、トイレの配置の問題とか。たとえトイレが1基しか配置できない場合でも、女性でも男性でも気兼ねなく使えるような位置に置いてあるかどうかというようなことは全然配慮していないのですね。その結果、女性が非常に働きづらいというようなことがあります。
 お申し出の趣旨は、女性を優遇している企業、職場が男女平等になっている、そういう企業については契約についてなんらかの優遇策を取れないだろうかというものでございました。これは先ほどの局長さんのお話の中にもありました東京都千代田区などでは、すでに取り入れられているものでございますが、優遇するかしないかについては難しい課題があります。たとえば環境に配慮した企業を優遇しようとするとき,ISO認証取得というような明確な基準がある場合には対応しやすいのですけれども、男女共同参画という観点から照らして、この企業はいいとか悪いとかという目安ですとか物差しづくりがまだ進んでいない現状があります。
 今後、企業における男女共同参画のあり方とか、職場における男女平等というのはどんなことなのかというようなことを本当に産学官で研究していけたらいいなというふうに思っております。これまでの職場慣行、あるいは企業の職場風土を変えていくというのは非常に難しい部分がありますが、苦情処理でこういう苦情が出てまいりましたので、それをきっかけにして、名古屋市が工事発注をする場合にどういうことに気をつけたらいいか、単なる契約ということだけではなくて、契約をすることによって、企業の取り組みがどういうふうに進んでいくのかということを考えていければ、条例の中に苦情処理制度を置いたということの意味は、非常に大きいと思っています。
 それから、拠点施設としてのセンターについてですが、これは内閣府の前の坂東局長にも来ていただき、ごあいさつをいただいて、現場も見ていただきましたけれども、今年の6月にオープンをしております。男女平等参画を推進する拠点施設ということで、施策を実施するということと、事業者や市民の皆様の男女共同参画社会実現に向けた取り組みをいろいろな形で支援をするということがコンセプトになっております。ですから、行政が勝手に平等参画を進めていくということではなくて、市民の皆様と一緒に進めていくという精神のもとに作られた施設でございます。それを実現するために、管理運営について、一部ですがNPOに委託をしております。具体的には1階のフロアー部分の管理と、そのスペースを使った事業の企画運営を委託しています。委託先を決定するに当たりましては、プロポーザル方式で公募し、3つのNPOからのご提案を審査して一つの団体に決定いたしました。
 名古屋市では、市長が、市民の能力を活用するということ、それから行政の無駄をそぎ落としていくということ、その結果として、市民サービスを高めていくということで、NPOへの委託、あるいは市民とのパートナーシップということを、いろいろなところで言っております。それをある意味では体現する場になったわけでございますが、今後ともいろいろなところでNPOとの協働は進んでいくと思いますが、「つながれっとNAGOYA」でのいろいろな失敗例、成功例が、今後のNPOとの協働のあり方についての一つの試金石になるのではないかと思っております。
 名古屋市は、婦人問題担当室ができてから25年かかって条例ができ、やっと体制が整ったというところです。実は、審議会の登用率については、22年度までに女性委員を40%にするという非常に高い目標を掲げております。17年度までに30%、22年度までに40%ということで努力をしているのですが、現在は21%。政令指定市の中でも最下位です。
 これをどういうふうに引き上げていくのかというのが非常に大きな課題です。地域委員の中でなかなか女性が長になりにくい。農業委員ですとか、区画整理組合の組合員に女性がなりにくいという現状も併せて変えていかないと、審議会の女性の登用率が上がらない。それから先ほど県の室長さんもお話されましたけれども、ある特定の専門領域の中に女性が進出していかないと、審議会の委員になれないというようなことがございます。
 そういう意味で人材育成ということ、新しい分野、女性が今までいなかった分野、そういった領域のところで活躍をする専門職の方、専門の方をぜひ大学として育てていただきたいと思っております。そんなことで、名古屋市はいろいろ努力しているけれども、細かい分野になるとなかなか進んでいかないという状況です。ただ「つながれっとNAGOYA」という拠点施設ができましたので、小さな施設ですけれどもそこを拠点にして市民の皆様と一緒に名古屋市における男女平等参画を進めていきたいと思っております。名古屋市からのお話はこれで終わらせていただきます。

金井 どうもありがとうございました。名古屋市の沿革、それから特に名古屋市に特徴的な事柄につきまして、苦情処理の方は具体的な事例までお話いただきました。非常に理解が進んだのではないかと思っております。ありがとうございました。
 続きまして、愛知県経営者協会の柴山専務理事兼事務局長からお話をいただきます。経営者協会さんは、男女共同参画について非常に熱心に取り組んでおられまして「男女の仕事生活と家庭生活両立支援ガイド」というのを昨年出しておられます。私も拝見したのですが、非常に充実した内容でございます。現在は厚生労働省の男性の育児休業取得率10%という目標が打ち出されているのですが、それをどういう形でクリアしていくか思案中とうかがっております。それではお願いします。

柴山 愛知県経営者協会の柴山と申します。どうぞよろしくお願いいたします。私からは、産業界とか企業における現状、課題、産官学連携に期待するものについてお話をさせていただきたいと思っております。
 まず現状でございますが、今ずいぶん持ち上げていただいたのですが、企業にとっては、いわゆる男女共同参画社会基本法の前に、ご存じのように均等法というものがすでに制定をされておりまして、企業における募集から退職、各ステージにおいていわゆる男女の平等、均等待遇というものは法律で規定されている。それに従って企業の方は対応を進めてきました。その後に、育児休業法ですとか介護休業法というものができあがって、その都度、企業は法律に適応した対応をしてきています。
 残念ながら、今まではそういった法律の制定、それに具体的に対応する、こういうどちらかというと消極的な対応ということを進めてきたということは正直言って認めざるを得ませんし、その辺は反省をしているところでございます。ただ、現実問題としては、いわゆる研究者の方がおっしゃるスピードで均等の実現ということが図られていないということは私どもも十分認識をしておりますが、それでも少しずつ職域の拡大ですとか、あるいは、しかるべきポジションへの女性の登用、こういったことは遅れ遅れしながらも進んでいると私どもは考えております。もちろん、いわゆる上場企業の取締役以上ですとか、あるいは部長級の上級管理職、こういったポジションへの登用は正直言ってまだ不十分だということは認めざるを得ないと思っております。

 それから、育児休業などのいわゆる家庭生活と仕事の両立、こういったものの支援につきましても、これは法律ができたからということはもちろんありますが、制度の導入についてはかなり普及が進んでいると考えております。ただ、残念ながら、育児休業の取得といった問題については、やはりこれは圧倒的に女性が利用されていて、男子従業員の育児休業の利用については、現状においては非常にさびしい状況でございます。先ほどご紹介がありましたように、先の国会で次世代の育成支援法案が成立しまして、その中に、企業の中での育児休業取得という努力目標も出てきておりますので、もう少し男性の育児休業といった問題にも企業は取り組んでいかなければならない。このように考えております。

 それから待遇面については、いわゆる人事処遇制度に関わる問題でございますが、現実問題として制度上、現段階で男女別に規定をされているというものは非常にまれなケースになってきていると考えておりますが、先ほどもいろいろな方がお話になりましたように、たとえば平均賃金といった実態面、こういったものについては確かに男女格差が出てくるといったことはあります。こういったことは、今後の運用のより充実とか改善を通じて、いくらかは改善をされてくると考えております。

 そういった現状の中で、私どもが考えている課題でございますけれども、基本的には、法律等の後押しもあって、いわゆる男女平等参画、あるいは均等待遇、こういった趣旨にのっとったハード面の整備は進んでいると考えておりますが、現実の運用実態、あるいは社員の意識、こういったソフト面については残念ながらまだハードの整備ほど進んでいないと考えております。
 とりわけ制度の前提となります、男性と女性の就業に対する意識、あるいは家庭責任に対する男女の考え方の違い、こういったものが、たとえば昇進、昇格などの運用の前提として出てまいりますので、今後制度をその趣旨にのっとって運用していく場合に、改善していかなければいけない第一の問題ではないかと思っております。
 ハード面については、かなり進んでまいりました。たとえば男女別で賃金テーブルが変えてあるとか、そういったことはもうほとんどございませんし、男女別定年制などということも過去のものになっていますが、現在企業の方も、さらに処遇面の改善を進めています。たとえばパートと正社員といった採用時の身分、極端に言いますと国籍ですとか、こういった要素をできるだけ少なくした人事処遇制度、すなわち職務内容、業績、成果、こういったものを前提とした処遇とか、人材登用といった制度の導入が今現在進んでおりまして、こうした制度の導入、改善は、女性の活用なり登用といったことに、さらにプラスになるというふうに考えております。
 ただ、この問題で申し上げておかなければいけないと思っておりますのは、こういった制度の導入に伴って、今までの居心地の良さ、これは男性にも女性にもあてはまると思いますが、男性でもある一定の男性なるがゆえの安住した地位ですとか、将来の昇進、こういったものは当然否定をされるわけでございますし、女性の従業員の方にとっても、男性並みというとあとでご批判を受けるかもしれませんけれども、仕事に対する取り組みの厳しさが要求されることになりますので、そういったことは当然、男女ともに覚悟をしていただかないといけないのだと考えております。今後も男女の共同参画なり職場における男女平等については、ある程度の進展は見込まれておりますし、企業としても積極的に進めてまいりたいと思います。

 それからもう一つ、環境の変化から申し上げますと、ご存じのように現在は、企業間の国際的な競争ですとか、あるいは国内においても競争が強まってきております。そういった側面からも、企業は、より企業に貢献していただける人材を求めたい。これはどこの企業でも同じ考えでございます。今までそれは、男性だけである一定の数量というものが確保できたという時代がずっと続いてまいりました。そういう前提でいろいろな制度が作られ、運用されてきたわけですが、ここへ来てずいぶん企業の環境も変わってまいりまして、現在企業が考えていることは、先ほど申しましたように、極端に言いますと国籍にこだわらない。つまり外国人でも企業が必要としている人材なら積極的に登用していこうと考えているのです。もちろん女性、あるいは高齢者についても同様で、今まで男性だけでまかなってくることができた分野について、企業はより範囲を広げて人材を活用しようと、かなりの多くの企業が考えているところでございます。

 最終的に企業がどのような社会を実現していこうかということでございますけれども、実は今年の1月に日本経団連というところが、今後の日本社会のあり方についてのビジョンを発表しておりまして、その中のめざすべき一つの方向性として、個人の力を生かす社会を実現するということがございます。この中で、働く場というものをどう考えているのかと言いますと、端的に言えば、各個人の価値観ですとか目標が多様化をしておりますので、そういったものを尊重して多様な選択肢が実現できる社会をめざそうということです。こういった中に、女性の職場進出であったり、あるいは仕事と家庭の両立支援であったりといったことが含まれているわけでございますが、女性ということを基本的には意識をしておりません。これは男性も女性も、あるいは日本人も外国人も、高齢者も若者も、すべてそれぞれの価値観を尊重して社会で活躍できる社会を実現するということです。

 産官学の連携に期待するということでございますが、企業側としてこういったことを進めていくうえで何が一番ネックになっているかというと、やはり意識の変革、つまり男性ですとか女性、それから若い人ですとか高齢者、こういった方々の意識変革がなかなか進んでいかない。
 先ほどご紹介いただいた育児休業の問題ですが、取りたいという人が非常に多い。でもなかなか取れない。別の調査を見ると、女性が「自分の夫に育児休業を取ってほしいですか」と聞くと、かなりの方が「いや、自分の夫には取ってほしくない」と答えている。
 こういったように、意識変革というのはなかなか難しくて、企業が強制をできるというものでもないものですから、意識変革ということについては、産官学連携してある程度進めていかないといけないかなと思います。とりわけ、先ほども言われましたように、学生の方がこれから就職して企業へ入るときに、女性だけでなくて男子の学生にもやはり男女共同参画意識を植えつけるということを、ぜひお願いをしたいところでございます。

 それから、環境の整備についてはそれぞれの分野でご苦労されて進んでいらっしゃるわけですが、男性も女性もチャレンジをしないとなかなか扉が開いていかない。だから、そういった前向きな精神を同時に身につけていただきたい。こういう制度ができたから、それを活用していくということはもちろんですが、企業社会の中では、自分から行動するというチャレンジは非常に重要だと考えております。
 人材育成の問題は、先ほど名取局長もおっしゃったように、工学系、理系の女子学生がやはり少ない。こういった分野は、企業でいくと営業とか、総務、経理という分野よりは、男女平等が実現しやすい。そういった面で考えると、大学の教育においても、男性と女性の入学定員をフィフティフィフティに、ということは実現不可能だと思いますけれども、できる限り工学系の女子学生の育成に、ぜひ力を注いでいただきたい。

 そういったことを産業界と行政と学校が情報交換をしながら進めていくことは、私どもとしては非常に意義が大きいと思っておりますし、そういった社会の実現にとって非常に大きな役割が果たせると考えております。私からは以上でございます。どうもありがとうございました。

金井 ありがとうございました。チャレンジ、今までの体制の中でそこそこ適応してきたということ、男も女もチャレンジして変革していかなければいけないのではないかということが、今とても印象に残ったところでございます。産学官連携に期待するものということにつきましても、期待は非常に大きいとうかがわせていただきました。ありがとうございました。
 続きまして、連合愛知の橋本調査・広報局長からお話をいただきます。連合愛知では、連合組織自身の男女共同参画を、具体的数値目標を立てて進めておられるとうかがっております。それではよろしくお願いいたします。

橋本 連合愛知の橋本です。よろしくお願いいたします。
 連合愛知というのは、国全体でいくならば「連合」という労働組合ですが、だいたい勤労者のうちの労働組合に入っている人というのは20%ぐらいなのです。そのうち連合に入っている人が15%強なのですが、ただ労働組合というものが成り立ちは長い歴史を持っていますので、そこから話をしていくと非常に時間がかかってしまいますので、なかなか述べられないのですけれども、非常に男性社会なのです。女性の役員とか活動家が非常に少ないというのが現状です。そういう部分も含めて、長い組合活動をしていく中でステップアップしていって、そしてそれぞれの労働組合の中でのある委員長だとか会長といったポジションについていくという部分があります。したがいまして、非常に長い時間を経てやっとある程度の、ある程度というかよくわかりませんが、ポジションについてくるという歴史的な部分がありますので、実は男女平等参画を進めるのにはなかなか厳しいシステムだなということを今、強く感じているところでございます。
 とは言うものの、はっきり言って男性社会中心の労働組合であっても、時代の流れの中で男女平等参画ということを考えていかなければ成り立たないということに、やっと遅まきながら気づきまして、それを強烈に進めようとしております。
 連合の本部、中央といたしましては「第2次男女平等参画推進計画」、アクションプランを立てまして、先ほども名取さんからご紹介があったように、労働組合の中では27%が女性の比率なのだそうです。逆に言えば、国民の半分は女性であるにも関わらず、組合の中での女性の比率というのは27%しかないということです。その理由については、今までの労働組合というのは、正社員を中心とした組合ということで、今までいくつかの数値的なデータからも出てきていると思うのですが、女性の勤労者の方の多くが、パート労働とか非典型の形の労働をしていらっしゃって、そういう労働形態の方は労働組合には入れないとか入らないとかという実態があり、現状は非常に女性の組合員比率が低いということを基礎的に認識として持っていていただきたいと思います。
 全国では、先ほどありましたが、27%というのが女性の組合員の比率なのです。それを連合本部の考え方でいくと、6年間の目標なのですけれど、6年後には労働組合の中での役員、それからさまざまな話し合いをする場面に27%の女性を入れようと考えなのです。27%というのは女性の組合員比率が27%だからです。それで今後、女性の組合員比率が上がったら、それに合わせて話し合いの場だとか執行機関とかにもそれだけの比率の女性を入れていきましょうということなのです。
 連合愛知は、実は女性の組合員比率が17%です。なぜかというと、製造業が多いところで、特に愛知というのは自動車関連をはじめとした製造業が多く、そういう環境の中で男性の勤労者が多かったということで、全国に比べて非常に低い17%という数字になっています。中央での計画を受けまして、連合愛知については2002年の10月、昨年の10月から6年間の計画で、数値目標としては女性役員については女性組合員比率である17%にしましょうという計画です。今年から始まったところですが、2年ごとに具体的な数値の目標を掲げて、それをクリアしていこうと考えています。その第1期の前半である今年が終わろうとしているわけですが、この間に、現状を把握しようということで、抽出した組合さんにお願いして、一体どれぐらい女性が組合の役員になっているのか、執行機関や話し合いの場にいるのか、それから決議する場にいるのかということや、どのような形で女性の役員を作ることができるように育成をしているのかについて、非常に細部に渡って調査をしました。
 その結果は、想像もできると思うのですが、非常に厳しい現状です。まだまだそういう意識がないと。だいたい連合愛知が男女平等参画の推進の計画を作ったということがどれぐらい浸透しているかなというぐらいのところです。ただ、この調査をすることによって、そういうことを考えているのだということを浸透させている。それも一つの意味があるのかなと考えています。間もなく大会があるのですが、この結果についてそこで数値データを公表して、現状がこうなっているということを知らせていき、そして、次の年度で具体的にはどうしたらいいのかという方向性を示していくという形で進めているところでございます。
 それから、今までの話の中であるように、各地方自治体では男女平等参画を推進する条例を策定しているわけですが、県や名古屋市さんのような政令指定都市については、ほとんどのところが男女平等参画推進を条例として定めています。しかし、それ以外の市町については、そういった条例をまだ制定していない。これは法の下では義務にはなっていないのですね。ですけれども、今お話があったように条例を制定するということは、行政がいろいろな施策をしていくためには、それがあるからやらなければいけないということで進む部分もありますので、連合としては、各市町に対して「男女平等推進の条例を作ってください」という形で働きかけをしていきたいと考えています。
 それから、前段の話にもありましたが、パート労働者や非典型の方々につきましては、やはり労働組合に入っていただこう。パート労働者の方や非典型の皆さんというのは、正直に言うとまだまだ賃金面では非常に苦しい部分を受け持っていただいています。そういう方も共に、賃金も含めた労働条件を改善して、よりよいものにしていきたいと考えています。パート労働者の方は、今は女性の方がかなり多いわけですから、そういう部分を改善して、女性を安価な労働として考えない環境を実現していかなければいけない。そういう論理の下に私たちは取り組んでいる部分があります。
 春季生活闘争をはじめとした労働条件の改善につきましては、かなりしゃべりすぎましたので、飛ばさせていただきたいと思います。
 さて、生活者としての男女平等参画推進の基本的な考えとして、私の考えを述べさせていただきます。連合愛知、連合の考え方とすべて合致しているとは言えない部分もあるのですが、こういう考え方で私は捉えています。女性の社会進出をはばんでいるのは何かということについて、いろいろな場面で私なりに考えて言います。その中で今までの歴史的な中でも「この部分が」というのが、やはり出産、育児の部分ではないのかなと思います。出産は女性しかできないわけですが、育児については、男女が力を合わせて行うことができるわけです。しかし、たとえば男性が育児をしたいと言って職場を離れるということになると、はたしてその後の昇進はどうなるのだろうかと思うわけです。「なんだ、うちの会社よりも自分の生活を大切に考えるのか」と考えられれば、会社から切り離されてしまうのではないかという不安は絶対あるわけです。歴史的な中では当然女性についているわけで、「育児をするのは女性」という認識があったわけですから。ということで、職域や昇進についてもどこかで止められてしまうという部分があるのではないだろうかと思っています。
 それから、育児の時間を確保するためには男性と同じような勤務はできないのではないかというような、もうそうに決まっているという認識が今までの中ではあったのではないのかと私は思っています。
 そこで、今までそれが当たり前と考えた部分を切り替えていかなければいけないのではないかということで、「法令遵守を当たり前に」と書かせていただいたのですが、たとえば不払い残業。本当は残業しているのだけれどもうこれ以上残業はつけられないという実態があります。要は残業の時間が頭打ちになっているということが現実はあると思います。それから最低賃金というものがありますが、それを割っているような労働も実際あって、そうすると一定の賃金を得るために長時間の労働をしなければならなかったりするわけですよね。そういう部分を見直していかなければいけないのではないかと思っています。
 不払い残業をやるのが当たり前という状態で放置されていたり、時間当たりの賃金が低くても押さえられたりということをほったらかしにしていれば、その方が企業は利益が上がるわけですから、労働者に対して非常に不当な労働を強いている。まじめにそれを守っている企業は、逆に利益が得られないわけですから倒れていってしまう。そういったことを野放しにしてはいけないだろうというのが、私がここで言いたい部分です。「同一価値労働同一賃金の徹底」というのは、パート労働の方や非典型の方が今まではかなり安価な労働として使われていた部分があるのですけれども、その部分をしっかり見直して、短時間の労働であってもパートの労働であってもその価値に見合った給料、正社員であろうが、非典型の社員であろうが同じ賃金が与えられるという考え方に基づいていけば、労働の形態が変わっていくのではないかと思います。
 ですから、たとえば育児のために6時間働くのが限界ですという人であれば、継続的に労働ができて、それに見合った賃金がもらえれば生活は成り立っていったり、そのキャリアを続けていったりすることができるのではないかと私は思います。
 それから労働時間短縮については、週40時間が実現できたらいいなと思うわけですが、なかなかそれは難しいのかもしれません。いずれにしても私はワークシェアリングの考え方を頭の中に思い浮かべています。労働時間が短くなれば賃金はやはり減ります。労働時間が短くなって「今までと同じ給料をください」と言ったら、企業も倒れてしまいますよね。ですから、そういうことは考えていません。だから労働時間が短くなったら、給料は少なくなるかもしれない。逆に言うと、一人の働き手で家庭を支えるということは、もうできないのかもしれないのですね。でも、2人で働けば今まで以上の賃金が確保できるかもしれない。そして労働力としても、今まで以上の労働力が国全体として、その企業に対しても確保できるような、そういう考え方で進められないかなと思っています。
 そういうことを実現していけば「生活者としての家庭共同参画」という言葉で書かせていただきましたが、労働時間8時間、家庭での8時間、睡眠時間8時間というような時間を一日の中で割り振って、しっかり家庭を大切にした自分の生活、そして職業人としての生活もしっかりできるというようなものにできるのが理想だなと思っています。これが実現できたら何も苦労はなかったわけで、それは理想論になるかもしれませんが、そのような考え方で進めたいと思っています。
 産官学の連携に期待することなのですが、私たち労働組合というのは雇われる身の人の集まりですから、弱者だと自分は思っています。非常に能力があって、その能力をいろいろな場面で発揮できるという方もいらっしゃると思いますが、全員が全員そういうわけにはいかないと思います。もちろん自分のスペシャリティのある部分で力が発揮できる場合もあるかもしれませんが、すべてがすべてそうはいかないかもしれない。そういう場面で苦しんでいる人たちを助けていくのが労働組合の役割だと私は思っているわけですが、その中で最低基準とか、これ以上下げてはいけないというラインは、やはり行政に作っていただきたいと思っています。
 また、「最低でもここは確保しなければいけない」とか「ここは大切にしなければいけない」という部分については、説得力ある説明が必要です。我々みたいな人間が数少ないデータを集めたり、少ない人とのつながりの中で理論構築したりするのはなかなか難しいものですから、そういう部分についてはお互いにデータを出し合って、その中で「これは守っていかなければならないラインだ」とか、「大切にしなければいけない」という理論構築をしていただくのは、学の部分でお願いしたいと思っています。
 ルールにのっとった適正競争の話は、先ほどの話の中で述べましたので、これでいいのかなと思いますが。あと、「ジェンダー論に偏ることなく」ということについてですが、最近の流れの中で、男女平等参画が進もうとしているのをはばもうという流れがあります。その理由としては、ジェンダー論に偏っているような認識で物言いをする人たちがいるからだと思います。ですから、その辺はうまいぐあいに力を合わせて「そういう考え方は間違っているんだよ」ということを、草の根的に理解させていかなければいけないのかなと思っています。
 審議会等にはより広くの人間が参加して、そして合意の下で法制化し、いろいろなものを諮っていきたいと思います。その中で、やはり学の部分の力を借りないと、まともにいいものができていかないのかなと思っています。ちょっと足早の説明になってしまいましたが、以上で私の考えを述べさせていただきました。ありがとうございました。

金井 どうもありがとうございました。橋本さんの私見というお話がありましたけれども、非常に興味深い具体的なお話だったと思いますし、さすが連合という感じで、やはり労働組合の立場のご発言だったと思いました。非常に参考になる部分が多いと認識しております。
 最後のパネリストでございますけれども、名古屋大学男女共同参画室の田村室員からお話をさせていただきます。先ほど総長からもご紹介がありましたが、ポスターのモデルになっておりまして、1カ月だけですけれども、名古屋大学の男性教職員で初めて育児休業を取られた先生です。そういった体験もあると思うのですけれども、参画室の方では男女共同参画の理論構築を担当していただいておりまして、その知見の一部を今日はご披露いただきたいと思っております。それではお願いいたします。

田村 紹介いただいた田村です。法学研究科と男女共同参画室の兼任という形になっております。よろしくお願いします。
 私の話は、お手元にあるこのパンフレットの8~9ページです。ほかのパネリストの方が1ページしかとっていないのに、2ページもとってしまっています。しかし、先ほど金井先生からあったように、できるだけ手短にお話したいと思っております。
 本来ですと、私に求められている役割というのは、もしかしたら名古屋大学における男女共同参画の取り組みの報告ないし評価ということかもしれないのですが、今日はそのお話は総長及び副総長から概略をいただいていますので、もう少し違う話をしたいと思います。
 発言要旨の「はじめに」というところですが、産官学の連携ということで、その中で大学に期待される役割というのはどういうものが考えられるのだろうかということで思いついたものを挙げてみました。今日のお話がどれに当てはまるかという点だけ申し上げますと、4番目に挙げてある「全体的な(かつ基礎的な)視点の提供」というところです。「全体的」と「基礎的」というと、やや矛盾しているように思われるかもしれません。要するに個別の政策を越えた当該の問題領域、この場合ですと男女共同参画社会の実現という問題領域について、そのトータルな現状の把握と将来の展望ということを考えてみようということです。
 とはいえ、名取局長の方から抽象論はもう終わって具体的なことを考える段階だというお話があった後で、こういう全体的な話をすることになり、少し躊躇する部分もあります。しかし、半分は具体的な話のつもりです。どういうことかというと、具体的な政策については、やはりそれを全体としてどういう方向に持っていくのかという理念・アイデアといったものをセットにして考えておかないと、厄介なことになると思うのです。つまり、いくつかの政策の間で、あっちでこうやったのにこっちでは違うことをやったということが、とかく起こりがちであると思うのです。たとえば、80年代の日本では、一方では男女雇用機会均等法の成立ということがありながら、他方では配偶者特別控除制度および厚生年金における第三号被保険者制度の導入ということがありました。これでは、女性に働けと言っているのか、それとも働くなと言っているのか、一体どっちなんだということになるわけです。
 私が申し上げたいことは、結論は非常にシンプルです。つまり、名取局長の方からも「女性のチャレンジ支援策」というお話がありましたけれども、女性のチャレンジ支援を進めるためには、それと表裏一体で、あまり適切な言葉がないのですが、「男性の家庭進出」が必要である、ということです。
 なぜそうなのかということを今から申し上げます。発言要旨の第1節「男女共同参画社会をめぐる全体的(かつ基礎的)問題」には2つの問題があると書いてあります。その詳細の説明は省略して、どのような男女共同参画社会を考えていくのかという点にしぼって、第2節「どのような男女共同参画社会か?」に進みたいと思います。男女共同参画社会基本法が制定されてから既に数年経っており、確かに、男女共同参画社会の実現ということに対して面と向かって反対するという人は、たぶん少数であると思います。そういう意味では男女共同参画社会の実現については合意があるわけです。しかし、それでは実際にどのような社会なのかという点になると、必ずしも合意があるとは言えないのではないかと考えております。そういうわけで、私なりに、いくつかのあり得る男女共同参画社会像というものを挙げてみました。もっとも、これには、ある学者の議論をかなり参照していますので、全くのオリジナルというわけではありません。発言要旨に書いてあるモデルは全部で3つありますけれども、この中で、今日は特に、二番目の「女性も男性並みに働くことのできる」社会と、次のページに三番目として挙げた「女性も男性も、仕事も家事・育児(あるいは介護)もやる」社会という、この2つの男女共同参画社会像を、いわば理念型的に抽出し、比較検討します。その上で、私としては三番目の社会像のほうを擁護したいと思っているわけです。
 まず、第二の「女性も男性並みに働くことのできる」社会について、簡単に説明いたします。従来、とりわけ日本では、「男は仕事、女は家事・育児、あるいは介護」というような規範意識がありました。これを改革するためには女性の社会進出が必要だというのが、このモデルの基本です。その中で「女性のチャレンジ支援」ということも言われてくるのであろうと思うわけです。このモデルでは、女性が男性と対等に働いて評価される社会がたいへん望ましい社会である、ということになります。しかし、女性が家事・育児負担を負ったままでは、男性と対等に働くことは困難です。そこで、「ケア」というものを――「ケア」というのは育児・家事・介護を総称して最近使われているので使っています――「脱家族化」する、という発想が出てくるわけです。育児であれば、保育園をより充実させるということがあります。家事についても、いろいろあるでしょう。例えば、もっとクリーニング店を利用しやすくするなどということもあるかもしれません。介護については、家族だけに頼らない介護のあり方を考えるということになるでしょう。こういった「ケアの脱家族化」政策というものが必要ということになるのです。このモデルの場合には、これは私のかなり独断的な判断かもしれませんけれども、しばしば、働いてこそしっかりした個人であり、自立した個人であるという理念が、どうも暗黙のうちに入りこんでくるのではないかと思います。
 それから、雇用の条件としては、ジェンダー中立的ということになると思います。この点については、先ほど柴山さんからのお話にもちょっとありましたが、男女に関わらず、とにかく能力がある人を評価して採用していこう、ということになります。そういう社会というのは、一見、非常に望ましい社会のように思われます。しかし、私としては、あえていくつか疑問を述べさせていただこうと思います。第一に、先ほど申し上げた「ケアの脱家族化」ですが、これを完全にやることはたぶん不可能です。確かに、私自身も、子どもを保育園に預けておりますが、じゃあ全面的に保育園で24時間面倒をみてくれるかというと、そういうことはあり得ないわけです。そういう意味で、全面的な「ケアの脱家族化」は不可能なのですが、仮に可能だとして、それでは望ましいかというと、3歳児神話は問題外としましても、それでもさすがに24時間子どもを保育園に預けっぱなしが望ましいとは、少なくとも人類の進化の現段階では思えないわけであります。
 そうすると、第二の疑問として、どういう帰結が待っているかというと、これもかなり私の推測が入っていますが、「女性は仕事もがんばってやってくれ。ただし相対的に少なくなったとはいえ、家事・育児もちゃんとやってくれ」という話になってしまう可能性がかなり高いのではないかと思うのです。例えば、現状においても日本男性の家事・育児時間は国際的に見てかなり少ないのです。これは共働きの場合でもそうです。しかも、場合によっては共働き夫婦の方が夫の家事・育児時間はそうでないところよりも少ないという調査結果が出ることもあるぐらい、圧倒的に少ないわけですね。そういう中で、女性がとりわけ仕事の領域にどんどん社会進出していっても、結局、家事育児を夫があまりやらない状況では、やっぱりやらなければいけない、ということになります。そうすると、この場合に、仕事においてはたして「男性並みの評価」を得ることができるだろうか、という疑問が出てくるわけです。
 それからもう一つ、第三の疑問として、より大きな視点からこの社会像を眺めてみますと、先ほど申し上げたような、きちっと一人前に働いてこそ自立した人間という価値観を持つ社会というものをぼちぼち見直した方がいいのではないか、という考え方もできます。そういう社会は経済成長を前提とする社会とかなり密接な関係があると思います。しかし、恐らく、そういう経済成長を前提とした社会というのは、21世紀にはもはや望ましい社会とは言えないのではないか、ということが考えられるわけです。

 次に第三の社会像の方に行きます。「女性も男性も、仕事も家事・育児もやる」社会というのは、どういう社会なのでしょうか。この社会の基本的な考え方は、先ほど申し上げたような「男は仕事、女は家事・育児プラスあるいは仕事」というような意識の改革には、まず男性の「家庭進出」というものが必要なのではないかということであります。これは、私自身の体験からいってもかなりそう言えるなという実感があるのですが、男性というのはとかく家事・育児というものがイメージできていません。これは、家事・育児の具体的な作業についてもそうなのですが、その重要性についてもイメージが湧かないのです。それで、家事・育児と仕事を量りにかけると、すぐに仕事の方に傾いてしまう、ということになるわけです。こういう状況では、なかなか男女共同参画社会の実現も難しいと思われます。
 したがって、男女とも、まったくの同等かどうかはともかくとして、大体同程度に家事・育児を行うことで、初めて男女共同参画社会は実現するのではないか、ということになるわけです。そのために重要なことは、男性の家事・育児、あるいは介護への参画促進を実現するための諸政策を形成・実施していくことであろうと思います。そのためには、先ほど橋本さんがおっしゃられたような長時間労働規制を行うことは、不可欠というか、当然の前提ではないか思います。また、小泉内閣の下で「待機児童ゼロ」ということで保育所の充実とか、育休取得率のアップということが言われているわけですけれども、これも、男性を含めた働き方の見直しという観点で進められないと、やはり女性だけの問題にたやすく転化してしまう可能性があると思います。
 なお、発言要旨に厚生労働省の「少子化対策プラスワン」というプランの名称を挙げておきましたけれども、これはこの「少子化対策プラスワン」が今申し上げた問題点を持っているというのではなくて、これはちゃんと男性を含めた視点を持っていて評価できる、ということで挙げてあります。この「女性も男性も、仕事も家事・育児もやる社会」を、より大きな長期的な展望から見ると、この社会では働くことの意義がこれまでよりも相対的に減少して、いわば「ポスト産業主義」的な社会というものを見通すことができるのではないかと思っています。
 最後に、そういった社会は万々歳の社会なのかという点について、この問題を考えるために若干の議論の材料を提供したいと思います。まず、今申し上げたような「モデル3」のような社会、「男も女も、仕事も家事・育児も」というような社会については一つの反論があります。それが、発言要旨「おわりに」の・として挙げた批判です。要するに、このモデルは、新たに「特定の性役割・家族モデル」を押しつけているのではないか、というものです。つまり、こういうことです。今までは、男だけが働いて、女は家事・育児をするというのがよくも悪くもスタンダードであった。これからは男女とも働いて、家事も育児もするというのは、やはりそれはそれで特定の性役割・家族モデルを想定しているのではないか、そういうのはよくないのではないか、というわけです。したがって、こういう立場からすると、男女共同参画社会というのは、何か特定の家族観をモデルにするのではなくて、まさに文字通り多様な家族が共存できるような社会でなければいけないのではないか、ということになります。
 ただし、文字通り多様な家族が共生できる社会を考えるのは本当に難しいです。どうしても、いろいろなパターンを共存させることができる政策というのは、非常に難しいと思います。そういった中で、最近ある本の中で、注目すべきアイデアを見つけました。それは、「在宅育児手当」という提案です。これは、要するに子育ての権利とか子育ての時間というのは非常に大事だという考えに立ち返って、今ですと保育園、特に認可の保育園に行くと保育料などはかなり安くなったりするわけですけれども、それだけではなく自分の家で子育てをしたい人にも「育児手当」というものを一定額給付してはどうかという提案であります。確かに、そうなると家で子育てしたい人も、子どもを預けて働きたい人も両方とも合意できそうで、なかなかよい提案のような気もします。しかし、この提案がなされている本からは、どうしても家で子育てをするのは女性、しかも専業主婦の女性というニュアンスが見え隠れしているという印象を受けました。この点は、やはり問題であるという気がいたします。
 それからもう一つのアイデアですが、これはまったく違うところから出てきている議論で、「ベーシック・インカム」という議論もございます。ここで詳細を申し上げることはできないのですが、これは給付にあたって条件をつけないで、老若男女問わず全員一律に、一定の金額を給付しようという制度であります。この制度が、もしかしたら、さまざまなあらゆる家族形態の保障につながるかもしれないというふうに思っています。
 最後にもう一点申し上げたいことは、このシンポジウムのテーマの産官学連携についてです。最後にお話した「在宅育児手当」や「ベーシック・インカム」の提案は、確かに、いずれにしてもその実現のためには、なかなか難しい問題を含んでおります。しかし、今までの社会のあり方から何らかの形で男女共同参画が実現した社会に変えていくためには、文字通り社会全体の構造転換が求められることは確かであります。ということは、社会の一部の領域、つまり官という一部の領域、産業という一部の領域、学という一部の領域、そういう一部の領域だけで個別に対応していたのでは、このような大規模な構造転換がなかなかうまく実現しないことは確実であろうと思います。したがって、やはりいろいろな領域間の連携を推進していかなければならないと思います。なおその場合に、私の個人的な意見としては、できれば産官学に「民」というものも加えて、それこそNPOであるとか、市民活動であるとか、そういった人たちの役割というものをもっと積極的に位置づけて、「産官学民」のような言い方にした方がいいのではないかというような気もいたします。
 少々早口になりましたが、以上で私の発言を終わらせていただきます。ありがとうございました。

金井 ありがとうございました。非常に歯切れよく一つの考え方の提示をしていただけたのではないかと思います。後ほど、フロアーの皆様からご意見、ご提案等をいただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。それでは、先ほど基調講演をお願いしました名取先生、少しご感想等々ご意見をいただければと思います。

名取 どうもありがとうございます。皆様のお話を伺って、これこそまさにチャレンジなのだという気持ちがしておりました。若干の感想を述べさせていただきます。
 まず、行政の方から県と市の方がおみえになっています。私は、先ほど申し上げるのを忘れましたけれども、総理府がまだありましたときの平成7年4月から平成11年7月までの4年3カ月に渡って、男女共同参画室長を務めておりまして、その間、北京会議もありましたし、それから、3年時限の審議会が「男女共同参画ビジョン」を出され、そしてその審議会がなくなってしまうので、なんとか恒久的な審議会を作ってほしいということで「男女共同参画審議会設置法」というのを提案させていただきました。それが無事に通って、平成9年に審議会ができました。その審議会が基本法の議論をしてくださって、平成11年の通常国会に「男女共同参画審議会設置法」が出されて、参議院、衆議院全会一致で可決成立したというのを見届けてそこを離れたわけです。
 それから4年ちょっと経ちまして、今度は内閣府の男女共同参画局ということで局長になってまいりました。そのときに強く感じましたのは、ナショナルマシーナリーとよく言うのですが、男女共同参画を旗振るところというのがあるわけですね。ちょうどこちらに室があるように。そういうところがやはり強化されるということは非常にありがたいなという気がしております。内閣府の局ができ、そして参画会議ができ、基本法ができというように進んでまいることは、非常に速度が迅速する。何かちょうど軽乗用車に乗っていたのが、戻ってきたら大型の車に乗れるようになったなという感じでした。
 やはり県も市もそういうところがとても大事なところだと思います。もちろん大学も。そしてそれにはやはり長の意識というのは非常に大事ではないかという気がしてうかがっておりました。条例の話は、確かに基本法には入っておりませんでした。基本法の方には男女共同参画を進めるための計画を県では必置、ぜひ作ってください。それから市町村には努力義務ということでお願いをしているというレベルですが、おかげさまで条例を作られる自治体がどんどん増えてきて、特に県も市も作ってくださっているということでたいへんありがたく思っております。
 先ほど連合の橋本さんがおっしゃったように、最近、やや条例についても、バックラッシュというのでしょうか、ちょっとそういう雰囲気が出てきて若干心配はしているところですが、基本的にはどんどん進んでいると思っています。やはり条例があれば進むなということで、たいへん頼もしくうかがっておりました。
 それから経営者協会の方の話も、ハード面は整備されて、あとはソフト面だというお話なのですが、「うーん、本当にハードは大丈夫なのかな」と若干思ったのが偽らざる心境でした。当たっているかどうかわかりませんが、ハードの整備が進みますとソフトもついてくるということが結構あります。先ほど、男女別賃金表はなくなった、男女別定年制はないだろうとお話をされましたが、「ああ、まだそれがなくなったレベルなのだな」と思っていました。たぶんそうしますと、配偶者手当だとか、もろもろな世帯主に対する手当というのは、ひょっとするとまだあるのかなとか、そんな感じで承っておりました。やはり女性の採用、人材登用についてよろしくお願いしたいと思っております。
 連合の方の話は、確かに愛知はどうもすごく少ないという状況で、全国27%、愛知は17%。さすがに大企業中心のところだなと思っておりました。その中で一生懸命旗振りをしていただいていて本当にありがたいと思います。連合からは、私どもの審議会へも来ていただいておりまして、参画会議にも連合から出席していただいておりますし、連合におきましての男女共同参画の推進について、引き続きよろしくお願いしたいと思っております。
 それから田村先生、非常に興味深く拝聴しました。基本法は男女共同参画社会を進めるうえでの理念を並べておりまして、その基本的な構造は、要するに今まで男性が中心に進んでいた政策決定の場で、男女がもっと一緒にやりましょう。家庭は今まで女性ばかりだったので、男性もひとつ参加してくださいよ。それから社会制度、慣行も、これも結構隠れた性別役割分担をいろいろと反映しているのであって、そういうのも直していきましょう。それからもちろん人権も配慮していきましょう。国際的なことにも気配りしていきましょうという基本理念に基づいています。ですから、先ほど片方で均等法ができ、片方で配偶者控除や第三号被保険者の制度ができたというのは、ご覧になって変な雰囲気だったとおっしゃいましたが、今度はそういうことはないと思います。基本法といいますのは基本的に理念に反することは、政府はできないという縛りがかかりますので、それはないと思います。
 ただ、その理念をそうやって精緻に並べていただきますと、なるほど確かにそういうことが問題になっているかなという感じがあります。基本的に私どもの会議のいろいろな調査委員会が出しています報告書などを見ますと、やや今の社会的な年金ですとか社会保障のことというのは、専業主婦がお家にいる片働きの男性に若干有利になっているのではないか。それができたときには非常に合理的な制度で、当時は専業主婦が非常に多くて、片働きの人たちが世の中を支えていたというわけです。
 今はどうなっているかというと、どんどんそういう世帯が少なくなって、だいたい今は共働き世帯と片働き世帯と半々、あるいは共働きの方が増えてきている状況になっているので、そういう世の中に合った制度を作るべきではないかと考えられるようになりました。そうするとだんだん中立性が揺らいできますので,片働きが優遇されている制度を少し考え直そうかというところで今、止まっている状況ですね。
 ですから、先ほどの「おわりに」は若干時代を先に走っていらっしゃるような感じがしております。まだまだそこまでは進んでいなくて、要するに現在は片働きへちょっと手厚くなっている現状であるという状況に止まっていて、今後それをどうするかという話であろうかなと思っておりました。こういうふうに精緻に詰めていただけると、非常に問題がよくわかってたいへんありがたいなと思います。どうもありがとうございました。
 全体の感想ですが、各お立場の方々が一堂にこうやって並んでくださって、それぞれご発言いただいたこの場は、たいへんすばらしいもので、もし可能でありましたらば、できるだけこういうことを続けていただきたいと思っております。どうもありがとうございました。

金井 ありがとうございます。非常に鋭いご指摘をいただきまして、たいへん感謝しております。また、最後には応援をいただきましてありがとうございました。それでは、せっかくの機会ですから、フロアーの皆様からご意見、ご提案等をいただければなと思っております。男女共同参画における産学官連携という非常に新しい動きに対して、ぜひご発言をいただければと思います。マイクをお回しいたしますので、お差し支えなければご所属とお名前を最初にお知らせいただければと思います。今回は、大学外の皆さんにも大勢おいでいただいておりますし、大学院生、学生も参加をさせていただいております。ぜひご発言をいただければと思います。

河村 河村と申します。百貨店の人事部に勤めております。私の勤めているところは、今ちょっと儲かっていない、非常に苦戦をしている業界でもあるので、私の勤めている会社の特徴かもしれませんが、働きやすい環境とちょっと逆行しているという状況にあるかもしれません。
 田村先生のご発言に非常に参考になるところが多かったので、来てよかったなと思っています。いろいろな国とか、それからエンゼルプランなどもありまして、いろいろなモデルを作って政策がなされているようですが、一番終わりのところで提起しておられたように、特定のモデルを作ってそれを押しつけるという形は、先生もたぶんおかしいと思っていらっしゃると私には受け取れました。家族という形態を持たないで生活していらっしゃる方もまた労働者ですし、それから男とか女とかいう役割にとらわれずに働いていらっしゃる方もあるわけですので、どんな家族形態や生活形態であっても不公平を被らない社会の必要性というところに非常に共感を覚えました。
 まだ、若干今の世の中の動きからは早いかもしれませんけれども、そういうどんな人でも働きやすいとか、一つのモデルにはまってしまって、それ以外の人は若干リスクを負わなければいけないというものについては、私はちょっと疑問を感じるわけです。とてもいい、私としては共感を得られるご意見でしたので、何かまとまった本でも出されるときがあったら、ぜひ教えていただきたいと思います。ありがとうございました。

金井 ありがとうございます。本にするというお話も出ましたので、田村先生にはぜひ進めていただければと思います。
 それにつけましても、ここにお集まりの皆様、あるいは今日は残念ながらご参加いただけなかった皆様のご意見をうかがいながら、男女共同参画を進めていかなくてはなりません。といいますのはある一部の場所だけが走っていっても仕方がないのは、愛知県さんや名古屋市さんも先ほどご主張されたとおりでございまして、私たち皆のために何かなることということを考えていかなければならないのではないかと思っている次第でございます。
 お時間も迫ってまいりましたのでそろそろ締めさせていただきますが、まだまだいろいろな論点がありますし、理想とする男女共同参画社会というか、男女共同参画と言わなくても理想とする社会というのはどういったものなのか、これから働くにしろ、生活するにしろ、何にするにしろ、私たちの理想とはどういうことなのかということを今後考えていかなければならないのではないかと思います。
 今日のお話の中では、「多様性」というキーワードが出てきたのではないかと思っているところでございますが、今日のシンポジウムを1回限りの単発のものとして終わらせてしまうというのは非常に残念だと思っております。名取局長からも、先ほどちょっとそういう話がありましたが、ぜひこういった産学官連携の恒常的なフォーラムという形で進めていきたいなと考えているところでございます。いきなりフォーラムを立ち上げるといっても、それこそ一部でやっても意味がありませんので、合意づくりということが必要になってくるわけでございますから、今日のパネリストの皆さんを中心に、まずフォーラムの創設の準備委員会というようなものを作らせていただいて、今回お集まりの皆さんのご意見もうかがいながらこういった活動を恒常的に進めていきたいと思っている次第でございます。
 パネリストの皆様、いかがでございましょうか。ご賛同いただけますでしょうか。(一同了解)それでは、ご賛同いただけたということで、今後そういったことをぜひ進めさせていただくということを宣言させていただきまして、このパネルディスカッションを締めさせていただきます。本日はどうもありがとうございました。

束村 パネルディスカッションでご発言をいただいた皆様、どうも本当にご苦労様でした。ありがとうございました。もう一度、盛大なる拍手をよろしくお願いいたします。それからフロアーからも貴重なご意見をいただきまして本当にありがとうございました。
 今日は、先ほど金井室長が言いましたように、産学官でこの男女共同参画を考えようというフォーラムを創設する準備委員会ができたということを確認させていただき、本当に心強く思っております。また、名取先生には貴重なお話をいただきまして、ありがとうございました。これから理想的な男女共同参画のあり方を皆で見つけていこうという中で、その男女共同参画が進めば、皆にやさしく、皆にあたたかい世界になってくる。そして選択肢が増える、多様性を皆で認める社会になるだろうと私は考えております。これからもそのような社会を作るために、皆さんといっしょに考えていきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
 以上をもちまして、本日のシンポジウムの全プログラムは終了しますが、終了の前にひとつご案内させていただきます。受付に、いくつかの資料が置いてございます。名古屋大学における男女共同参画に関する報告書が2種類、それから愛知県の方からは、男女共同参画フォーラムのチラシをいただきましたので、これも置いております。興味のある方は持っていっていただきたいと思います。
 それから、先ほどから話題になっております青い立派なポスターですが、ここの一番右側に座っております田村助教授がモデルになっております。ここに「育児休業を取りたい男性は10人に7人いるのに、実際に取得した男性は1000人に3人しかいない」というデータを出しましたところ、非常に好評をいただい際に取得した男性は1000人に3人しかいない」というデータを出しましたところ、非常に好評をいただいております。男性が育児休業をとるのが当たり前になるのが理想です。たった1カ月とった田村先生が、スターになったり、本を書かれてしまっては、皆さんもちょっとおかしいぞと思っていらっしゃると思います。ぜひこれを皆様のご自宅なり、職場なりに貼っていただきたいと思います。また男性が育児休業を取りたいと言ったときに「ああ、そうだな」と思っていただくためにも、どうぞ持っていっていただきたいと思います。
 男女共同参画は楽しく明るい社会を作るということで、今後とも皆さんといっしょにがんばっていきたいと思います。どうもありがとうございました。
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