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1. 部局長ヒアリングの実施
男女共同参画推進に関する部局長ヒアリングは、本学の各部局における男女共同参画の現状およびそのための取組を把握し、男女共同参画の推進に関する意見交換を行うことを目的として、平成13(2001)年度に始まり、以後、毎年度開催され今日にいたっている。なお、主催は、昨年度より男女共同参画推進専門委員会(以後、専門委員会)となっている。
第4回となる本年度のヒアリングは、8月23日(月)〜8月25日(水)の3日間にわたり、計31部局に対して実施された(詳細は後掲の日程表を参照)。当日のヒアリングは、概ね次のような手順で進められた。
1)各部局の女性教員数および比率の現況についての確認および全学の女性教員比率についての説明。
2)各部局に事前に配布したアンケートの回答結果に基づいた質疑応答、意見交換。とりわけ、次の二つの項目に重点が置かれた。
○女性教員採用目標数値の根拠、現状、および将来の達成見通し
○昨年度の専門委員会による、下記の本学における教員選考に関する提言(以下、「提言」と表記)の各項目に関する、各部局の現状と今後の方向性
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〈名古屋大学における教員選考に関する提言〉 |
1. |
当大学における教員選考は公募制を原則とすること、また、これを部局長間で正式に合意し大学内外に向けて表明したうえで、大学ホームページ等で公開し外から見える形にする。 |
2. |
やむを得ない事情で公募によらずに教員を選考する場合であっても、女性教員比率を向上させるよう努力する。最終候補者に女性が含まれない場合には、その理由を教授会に説明する。 |
3. |
ポジティブ・アクション(積極的改善措置)の一つとして、公募要項に、本学は教員選考において、ポジティブ・アクションを採用していることが理解される趣旨の文言を入れる。 |
【例】 |
(1)選考の最終段階で、候補者が女性を含めて複数となった場合には、女性を積極的に採用します。
(2)業績(研究業績、教育業績、社会的貢献、人物を含む)の評価において同等と認められた場合には、女性を積極的に採用します。 |
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3)各部局からの本学における男女共同参画の推進に関する要望や意見の聴取。
2. ヒアリング結果の概要
1)女性教員数について
ほとんどの部局で、今後、女性教員数は増加するあるいは増加するべきだ、との見解がみられた。理系部局の一部には、教員採用の際の女性候補者・応募者の数の少なさを指摘する部局もあり、この点は対策を要する問題である。しかし、もちろん、このことは、女性教員数増加の必要性あるいはその望ましさを否定するものではない。少なくとも、女性の応募者を何らかの形でエンカレッジするべきではないか、という意見も出された(農)。
2)公募制について
「提言」では、本学における教員選考は公募制を原則とする、と述べられている。本年度のヒアリングにおいても、ほとんどの部局が、教員選考において公募制を原則としていることが確認された。教授のみであった公募制を助教授にまで拡大することを検討している部局もあった。
公募制を原則としていない部局においても、広く教授会構成員から採用候補者の推薦を募っている部局や本年度初めて助教授以上の人事で公募を行った部局などがあった。
3)ポジティブ・アクションについて
「提言」は、公募要項に「ポジティブ・アクションを採用していることが理解される趣旨の文言を入れる」と述べている。公募文書に明示的に上記の趣旨の文言を記載したあるいは既に記載を決定している部局は、5部局であった(文、教、法、国言、農学国際教育協力研究センター)。昨年度のヒアリングおよび「教員採用のあり方ワーキンググループ」(当時)の調査では2部局であったので、ポジティブ・アクション関連の文言を記載する部局数は明確に増加した。
文言の具体的内容としては、「○○研究科では、男女共同参画を推進しています」といった趣旨の場合がほとんどであり、「提言」で例示したような趣旨の文言を記載している部局はなかった。ただし、記載内容を「更に一歩進めることもあり得ると思われる」と述べる部局もあったことは注目されてよい。
なお、5部局のうち1部局は、いったん取りやめていた文言の記載を復活させたものである。また、別の部局は、公募を原則とはしていないが、今後公募を行う場合にはポジティブ・アクションについての文言を記載するとのことであった。
加えて、文言としては記載していなくても、女性教員数の増大という観点から、「提言」3の例(2)のように、「業績等が同等の評価であれば女性を採用する」方針で人事を行っているとの回答も、少なくとも7部局から得た。さらに、少なくとも3部局で、ポジティブ・アクション関連の文言を公募文書に記載することを検討中である。
他方で、依然として、いくつかの部局からは、ポジティブ・アクションが「逆差別」となることへの懸念も表明された。
4)大学教員の労働条件
いくつかの理系部局から、近年は、女性だけでなく男性も大学教員にあまり魅力を感じていないように思われるとの発言があり、その理由として大学教員の多忙さ、職場環境の悪さなどが挙げられた(理、工、エコトピアなど)。長時間勤務を強いられる職場では、仕事と家庭との両立は困難とならざるを得ない、という意見もみられた(留学生センター)。
3. ヒアリング結果に対する所見
1)女性教員数について
女性教員数増加の必要性という点については、総論としては、概ね合意が形成されたと言える。印象として、昨年度のヒアリングよりも本年度の方が、女性教員増加のための取組に前向きな部局が増えたように思われる。ただし、そのための具体的方策という次元になると、根強く残るポジティブ・アクションに対する「逆差別」との評価など、依然として、全学的な合意が形成されているとは言い難い。
もっとも、教員選考そのものにおけるポジティブ・アクションには異論があるとしても、女性の学生・大学院生に対するエンカレッジのための方策を講じることについては本学構成員の多数の合意を得ることができるのではないかと思われる。そして、女性教員を増やすためには、その前提として、将来の研究者候補である女性の学生・院生の学業・研究生活を積極的に支援し、将来研究者を目指すための強い動機づけを与えることも重要なのである。
また、エンカレッジの意義は、いくつかの部局から出された、「女性教員の採用が少ないのは教員選考過程が女性に不利に作用しているためではなく、単に女性の応募者が少ないためである」という意見との関係でも、強調されるべきである。もちろん、教員選考過程に本当にバイアス(偏向)が存在しないのかどうかは、それ自体一層の精査を必要とする問題である。しかし、仮に選考過程そのものにバイアスが存在しないとしても、女性応募者が過度に少ないこと、そしてそもそも女性の院生・学生数が過度に少ないことは、少なくとも選考過程以前の段階で女性の当該分野での学業・研究を阻害する何らかのバイアスが作用している、との推定を可能にする。女性学生・院生へのエンカレッジは、このようなバイアスを弱めることに資すると期待できるのである。
エンカレッジ方策の具体例としては、女性の学生・院生対象のセミナーの開催、女子高校生対象の説明会の開催、研究室等における日常の会話・コミュニケーションを通じてのエンカレッジなどが考えられる。実際、本学では、本年度、男女共同参画推進専門委員会内の「女子学生支援策検討ワーキンググループ」が中心となり、「女子学生エンカレッジセミナー」の開催、女子高への理系部局からの出前講義などを行った。このような取組は、今後も継続的になされるべきであろう。また、日常会話を通じてのエンカレッジも、一見些細なことのように見えるかもしれないが、実は極めて重要である。研究や学界に関する話を無意識のうちに主に男性の学生・院生と行う、主として女性の学生・院生に対して就職の困難さや家庭生活との両立可能性について語りかける、このような行為は、その動機は仮に善意に基づくものであっても、結果として女性の学生・院生の学習・研究への動機づけを低減させてしまう可能性がある。これを防止するための制度的な対応策を講じることは困難であり、本学構成員一人一人の問題の認識が強く求められる。
2)公募制について
若干とはいえ、公募制の採用に進展が見られたことは評価できる。もちろん、公募制を採用することが直ちに女性教員数の増加に結びつくとは限らない。しかし、公募制採用の意義として、少なくとも次の三点を挙げることができる。すなわち、(1)応募過程での性別による無意識な差別を排除し得る、(2)性別にかかわらず応募の機会均等を確保し得る、(3)応募・選考過程の透明性を高めることができる、である(昨年度の報告書16頁参照)。今後も、公募制の採用状況が進展することを期待したい。
3)ポジティブ・アクションについて
昨年度に「提言」を示したことで、ポジティブ・アクションに対する関心が高まっているように思われる。公募文書に、関連する文言を記載する部局の増加やそうでなくとも「提言」に沿って「同等ならば女性を採用」という方針を打ち出す部局が一定数存在したことは、このことを裏付けている。
また、ポジティブ・アクションの推進のためには、各部局に委ねるよりも、全学的な観点から統一的な方向性をより強く打ち出した方がよいのではないか、との意見もみられた。この意見には、傾聴に値するところがある。ポジティブ・アクションはこれまでの教員選考の際の考慮事項に新しい観点を付け加えるものであり、その意味で確かに「挑戦的」な試みという性格を持つ。したがって、確かに各部局で個別に検討するよりも、全学的に足並みを揃えた方が、導入へのための敷居が低くなり、その蓋然性は高まるかもしれない。しかし、他方で、教員選考は部局の最重要事項の一つであるため、全学的な調整には慎重であるべき、との意見もみられた。
以上を勘案すれば、ポジティブ・アクションの全学的・一律的な導入については、なお慎重な検討が必要であると言えよう。しかし、やや間接的に、例えば名古屋大学が女性教員を増やすことに努めている姿勢を、様々な機会に、これまで以上に積極的にアピールしてゆくことは可能である。その際には、女性教員が増えた大学の具体像を積極的に提示してゆくこと、および名古屋大学の求める教員像を男女共同参画の視点を踏まえて再構成し積極的に提示してゆくこと、このような取組も重要となるのではないかと思われる。
なお、ポジティブ・アクションについて、「逆差別」との理解が依然として見受けられる。
確かに、内容によっては慎重な検討が必要な場合もあり得る。しかし、ポジティブ・アクションは「積極的改善措置」の文言で男女共同参画社会基本法にも規定されている上に、「提言」で述べている文言例の場合、いずれも、業績や能力の選考を行なうことが女性の積極的な採用の前提となっており、少なくともこの文言例について「逆差別」との評価は当てはまらない(この点については、昨年度報告書の16頁を参照されたい)。むしろ、「ポジティブ・アクション」と呼ぶには穏当に過ぎる、という評価もあり得る。
いずれにせよ、「逆差別」という論点への対応として、ここでは次の二点を提案しておきたい。第一に、「提言」に対する誤解を解消するべく努めることである。第二に、とはいえ、ポジティブ・アクションが極めて論争的なアイデアであることは確かであるため、学問的な次元に立ち返って検討を行なうことである。この点については、本年度、専門委員会内に「ポジティブ・アクション研究ワーキンググループ」が設置されており、同ワーキンググループの活動成果に期待するところである(詳細は、第2章第2節2.同ワーキンググループの活動報告の頁を参照)。
4)劣悪な労働条件の解消と目指すべき男女共同参画の姿
昨年度ヒアリングに引き続き本年度も、理系部局を中心に、劣悪または過酷な労働条件が、女性院生のみならず、男性院生の大学教員志望を妨げている、との意見が述べられた。2.で述べたように、この「劣悪」「過酷」の中には、研究設備の不備や資金不足などだけではなく、大学教員が多くの業務を抱え込むことで、長時間労働を余儀なくされていることが含まれている。
江原由美子も指摘するように(江原『フェミニズムのパラドックス』勁草書房、2000年、224頁以下)、「すべてを打ち込んでこそ学問という学問観」は、研究者の間で根強く保持されていると思われる。長時間労働の現実にこの学問観が重なれば、現状では家事・育児・介護などの活動(以下、「ケア活動」と表記)に男性よりも多く関わることが予想される女性院生が大学教員志望を逡巡する理由は、十分に理解することができる。ある部局からの「女性が男性と肩を並べてやっていくことの困難さ」という指摘も、このような文脈の中に位置づけることができる。これに加えて、ヒアリング結果からは、このような劣悪な労働条件を改善しなければ、現状では女性よりも総じて「ケア活動」から解放されており、それゆえ「すべてを打ち込む」ことのできる可能性が高いと思われる男性院生でさえも、大学教員を魅力的な選択肢として捉えていない状況を示唆している。結果として、教員の多忙化・長時間労働によって、男女を問わず優秀な人材の確保が困難となり、本学の研究能力の低下をもたらす可能性があると言わざるを得ない。研究設備の充実や研究資金の確保もさることながら、こうした多忙化・長時間労働という意味での劣悪な労働条件を改善するための抜本的対策が求められる所以である。
さらに重要なことは、このような労働条件の改善は、本学が目指すべき男女共同参画のビジョンにも関わっているという点である。男女共同参画は、「女性の社会進出」「女性も男性並みに働く」といったイメージで捉えられる傾向がある。ヒアリングでは、「女性の側も長時間の拘束に対応すべき」との意見もみられたが、これも、男女共同参画を上記のようなイメージで捉えていることに基づく発言であるとも考えられる。しかし、このようなイメージでは、男女間での「ケア活動」分担の偏り――性別役割分業――が是正されるのかどうか、定かではない。ところで、男女共同参画を推進するためには、この性別役割分業を是正することが不可欠である。したがって、「女性も男性並みに働く」ことが男女共同参画の推進に資するかどうかは疑わしい。
性別役割分業を是正するためには、むしろ、男性が「ケア活動」に関わる機会を積極的に保障してゆくことが重要である。多忙化・長時間労働という労働条件の改善は、このような機会の保障のための有用な方策であると考えられる。
学内における子育て支援策についても、同じことが当てはまる。例えば、ある部局からは、部局建物内に畳敷きの部屋を設置し乳幼児のオムツ換えなどにも利用できる、との紹介があった(文)。休日や夜半等に乳幼児を連れてやむを得ず来校する場合もあり得ることを考えれば、貴重な取り組みである。ただし、この部屋の設置は、「女性」への子育て支援ではなく、子育て中の「男女」への支援として理解されるべきであり、そのような観点からの周知の徹底が望まれるところである。また、専門委員会内部の「育児支援についての検討ワーキンググループ」が中心となって検討している新しい学内保育施設の設置も、「女性」教員の「仕事と子育ての両立支援策」ではなく、男性教員も「ケア活動」に関わることのできる機会を保障するための施策として積極的に位置づけるべきである。
このように、本学における男女共同参画を推進するにあたっては、「男性も女性並みにケア活動を行なう」という視点に常に留意することが必要である。
5)部局長のリーダーシップとヒアリング実施の重要性
本年度の特徴として、いくつかの部局で、男女共同参画に対する部局長の積極的な姿勢が印象的であったことがある。専門委員会でのヒアリング結果についての意見交換でも、部局長が変われば男女共同参画への取り組み方も変わってくるとの意見が提出された。今後は、男女共同参画を推進するためには、部局長のリーダーシップも重要であるとの認識に立ち、それを引き出すための方策について検討してゆくことも必要であろう。
また、運営上の諸々の困難が伴うとはいえ、毎年度ヒアリングを行なうことによって得るものは大きい、という点で専門委員会委員の意見は一致した。ただし、同時に、実施方法について、従来のような専門委員が一つの部局についてヒアリングを行なうという方法以外の方法についても模索する必要がある、という点でも一致した。一例として、複数の部局長等が一堂に会して意見交換や討論を行なう、という方式が考えられる。このことによって、各部局長は、他の部局における取り組みや意見を知る機会を得て、自らの部局にフィードバックすることも可能となる。また、このような相互交流的な場の設置によって、各部局から、他の部局や全学に向けて、有効な施策を積極的に提案してゆく可能性が開かれてゆくことも期待できる。よりよいヒアリング実施方法の検討は、今後の課題である。
4. 結論
以上、本年度のヒアリング結果から、本学の男女共同参画の取り組みに僅かながらも進展が見られたことが確認できるであろう。しかし、同時に、依然として多くの課題が残されていることも明らかになった。そのいくつかについては、3.において、来年度以降の活動において取り組むべき事柄を提言した。一方の専門委員会および男女共同参画室のイニシアティブの下での全学的な観点からの方向性や具体的な活動の提示と、他方の各部局からの提案や独自の活動とがクロスオーバーすることで、本学における男女共同参画のより一層の推進が期待できる。部局長ヒアリングは、そのようなクロスオーバーのための貴重な機会と言える。
(担当:田村哲樹)
平成16年度 男女共同参画推進に関するヒアリング日程表(PDF) |
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